教授ごあいさつ

最近の厚生労働省より、わが国では発達障害児の数がこの10年間、増加の一途を辿っていることが報告され、この3年間、調査委員会の1人としてその要因を調べてきました。その結果、障害児を受入れる学校が増えてきたことなど社会的な要因のほか、増加の程度を鑑みて、生物学的要因も想定せざるを得ないとの結論に達しました。
一方、時を同じくして、低出生体重児(2500g以下で生まれた赤ちゃん)の数も増加し、両現象が見られるのは、世界広しといえどもわが国だけであったこともわかってきました。さらに、諸外国の調査から、このような国は、小さく生まれた赤ちゃんが肥満や糖尿病、精神疾患を発症し、成人病が蔓延した国になっていくことが示唆されていることもわかりました。
今、上記の増加現象の生物学的基盤として、身体の中での遺伝子のエピジェネティック変化が想定されています。エピジェネティクスとは、染色体DNA上の化学修飾に基づく遺伝子の調節メカニズムのことをいいます。この「修飾」の異常を先天的に持っていると、さまざまな発達障害疾患になることが判明し、「修飾」をよりどころにした新しい遺伝子診断法も開発してきました。
ところで、最近、DNA「修飾」が、さまざまな環境やストレスの影響を受けて変化することがわかってきました。環境とは、例えば、栄養の不足や精神ストレスなどであり、逆に精神疾患薬や健康食品(ローヤルゼリー)に修飾の異常を是正する働きがあることがわかってきました。すなわちエピジェネティクスは、遺伝子だけでは説明できなかった病気が、環境の影響を受けてどのように発症するかを理解するキーワードになってきました。
数年前、幼少期に受けた精神ストレス(虐待)により脳内のエピジェネティクス変化が生じ、遺伝子機能の喪失や精神障害が発症し、これが一生持続することが判明し、最近、このようなエピジェネティクス変化が、その体質とともに、次世代や次々世代まで伝達されうるとの報告もなされるようになり、これまで未解明であった「三つ子の魂、百までも」や「ラマルクの進化論」がエピジェネティクスで証明される時代がすぐそこまで来ているのです。
以上をふまえ、われわれの研究室では、小児科医で神経学や遺伝学を専攻する私と、若き分子生物学や神経化学に精通したスタッフで、「世の中で良いとされてきたこと(習慣)がなぜ良いか、またどのような環境が子育てに良いのか、「修飾」の可逆性を利用した新しい遺伝子治療はできないか、といったことをエピジェネティクスを切り口に、研究を進めています。
山梨は、北に八ヶ岳、西に南アルプス、南に富士山、そして東に電車で1時間ほどで東京、といった場所に位置しています。わが国の社会情勢をふまえ、子どもたちの将来のために力を貸してくれる、情熱ある研究者の卵を、今、求めています。
